書物にできることは、幸福感を伝えることだ。

「書物にできることはいろいろある。知識や情熱を授け、一時の楽しみを与え、ことの道理を示し、見知らぬ土地に案内し、他人の人生を体験させ、時には怒りを煽る。しかし、結局のところ、書物というものの最高に機能は、幸福感を伝えることだ。

この定義は、すばらしいとおもう。
「読むことは、自己肯定につながる」という斉藤孝(だったかな?)
の言葉をおもいだす。

 幸福になるというのは人生の目的のはずなのに、実は幸福がどういうものか知らない人は多い、世の中にはこうすれば幸福になれると説く本はたくさんあっても、そう書いている人たちがみな幸福とは限らない。実例をもって示す本、つまり幸福そのものを伝える本は少ない。つまり、本当は誰もわかっていないのだ。

 『旅をする木』で星野が書いたのは、結局のところ、ゆく先々で一つの風景の中に立って、あるいは誰かに会って、いかによい時間、満ち足りた時間を過ごしたかという報告である。実際のはなし、この本にはそれ以外のことは書いていない。」

 池澤夏樹星野道夫旅をする木』のあとがき